ドイツの脱原発

ドイツのメルケル首相が率いる与党、キリスト教民主同盟(CDP)は、内実はかなり火の車らしい。


その原因の1つはギリシャのデフォルト問題で、ギリシャはアテネ五輪の際に外国の投資を使ってバブル経済化したが、五輪後のことまで十分に考えてやったとは言えないやったもん勝ちな内容だったので、不良債権化が進み、ギリシャのみならず投資をした国も含めて大きな金融不安になっている。


ギリシャの最大の債権保有者はドイツの銀行らしく、ギリシャが潰れた場合はドイツの金融界に大ダメージになるそうだ。


そういう爆弾を抱えているのでメルケル政権はかなり左前になってきており、地方選では連敗中だそうだ。
与党が死に体で地方選で負け続けというのは、ある意味日本と似ている。




日本のメディアの論調だと、メルケル政権は脱原発という所ばかりクローズアップされているが、なぜそういうことになったのか説明しているところはない。


原発は危険で金ばかりかかるから、脱原発はとにかく正しいという原理論になっていて、正しいのだから理由の説明は要らないという空気になっている印象がある。




脱原発と言うと、どこの国でも庶民階級から人気が出る。
原子力の動作原理やメリットは勉強しないと分らないが、放射能怖いは生の感情で分り易いので。


イタリアでは選挙での人気取りのために脱原発を言っていたら、本当に原発停止まで進んでしまった。


原発を止めてみたら電力輸入国となり、産業用で約40%、一般家庭用で約20%の電気料値上げとなり、長距離送電網はトラブルも多いので停電が頻発するという事態になって、産業の競争力が低下してしまった。
そのため産業界は原発再起動を望んでいるそうだ。




メルケル政権は、半年前まではどちらかというと原発推進派だった。


原発廃止に熱心なのは野党の社会民主労働党(SDP)の方で、こちらは可能な限り早く全面廃止する方向のようだ。


年々原油の調達事情は悪くなるし、欧州の植物相は酸性雨に弱い傾向があるので、火力を増やすのはなんとも良くない。


元から工業生産の規模が小さい国は、原子力も火力も自国内で大きくやるのは諦めて、電力を安く売ってくれる外国から輸入する方が妥当だとも言えるが、ドイツほどの大工業国が自国内での大電力発電を諦めるわけにはいかない。


ドイツであっても産業界は原子力支持なので、メルケル政権は現実的な範囲で原子力は排除しない方向だったが、福島原発の事故以来、急速に方向転換して脱原発路線を打ち出している。


脱原発派からすれば、原発は危険なのだから当然という話になるだろうけれど、地震がほとんどないドイツで、地震が原因の原発事故があったから急に脱原発論になるというのはヒステリックに過ぎる。




ギリシャのデフォルト回避には独仏の協調介入が不可欠とのことだが、フランスの中央銀行総裁は4月時点で国内銀行のギリシャ債権リスクは特に懸念せずと表明しており、フランスはそんなにピンチでもない様子なので、債権リスクの状況はドイツの方が苦しいのだろう。


となるとドイツは、最悪なデフォルトを回避するためにフランスに協力を求めるという立場になるはず。


ドイツが原発停止すると、フランスはドイツに対する電力売上げが大きく増えるので、フランスは機嫌が良くなるだろう。


原発停止すれば庶民階級から人気が出て票が取れるし、フランスに恩を売れるからギリシャの債権問題でも協力を得られる。一石二鳥のおいしい話だ。




メルケル政権が延命のために原子力を売ってフランスと取引したような状況になっていることに対し、ドイツ産業界は猛反発しており、電気料金値上げと原子力政策の急な転換によって発生する損害について、政府に賠償を求める訴訟を起こす動きまで出ているようだ。


日本だと政府がダメと言ったら民間は泣き寝入りというのが常識だが、あちらさんは王といえども法の前では平等という闘争の歴史を経て三権分立の制度を作ってきた文化のある風土だから、国と言えども妥当な利益を生まない恣意的・利己的な行動をすれば訴えられることになる。


日本の浜岡原発停止などは、政府には停止させる法的な根拠がないと弁護士出身の枝野官房長官が認めたぐらいなのだから、中電から原発停止に伴う損害賠償の訴訟を起こされたら、欧州の基準だったら政府が負ける可能性はかなりある。


でも日本だからそんなことは起こらないが。




メルケル政権も本気で原発止める気はないのかも知れない。廃止目標が2022年なので、なんだかんだ言ってのらくらやって引き伸ばし、止めるのは老朽化した炉だけにしておいて、風向きが変わったら再起動という腹積もりかも知れない。


日本では原子力の発電コストが高いという科学的根拠がない迷信が信じられているから、原子力のメリットが認識されていないが、あちらでは原子力大国のフランスが余剰電力をどんどん輸出している現実が目の前にあるので、大電力を発電する場合は、1kwあたりの発電コストは原子力が最も有利だと明白に分る。


日本の原子力が高コストなのは、地元自治体に対する助成金が高額で、その助成金も原子力運営のコストに含まれているからだそうだ。


助成金をたくさん払っているということは大っぴらに話せる話でもないので、原子力政策の話は小声で話すことになり、それが隠蔽臭い空気を生むので、反原発側から利権体質だと突っ込まれる材料にもなる。


助成金はコストを上昇させる一方で、過疎化傾向の地方経済を賦活する効果があり、反原発運動も起きなくなるので、コストをかけるだけの見返りはある。


現在でこそ、地震から来た事故発生で反原発が盛り上がっているが、事故前までの状況だと、日本は反原発運動が少なくて原子力政策がスムーズな国だった。
だからこそ狭い国土で50基以上の原子炉があるし、プルサーマル技術でも先行している。


という解説が、ウォールストリートジャーナルやニューヨークタイムズの記事にあった。
日本の実情をアメリカに書いてもらわないと分らないというのは、なんともという気がする。




メルケル政権が選挙で負けが込んでいて、苦境を脱するために脱原発で人気取りしているというのも、米紙の記事から知った。


日本のメディアは「脱原発」ならばとにかく原則論として正しいというスタンスなので、脱原発をやってしまって本当に大丈夫なのかどうか、脱原発というニンジンで踊らされている可能性はないのかを判断する材料にならない。


アメリカは明確に原子力推進が国策なので、米紙が書くことは原子力に有利なことばかりピックアップしている可能性もあるが、それならそれで脱原発ありきの日本紙と原子力推進ありきの米紙を、並べて比較して見てみる必要はあると思える。